只見川支流 袖沢 御神楽沢 [南会津]

 
[報告者] 高久明夫
釣行日:2003/8/10〜12
メンバー:小池 卓 、瀬畑孝久、高久明夫


 
 源流はこの時期、メジロアブの猛攻に遭うために標高が高くアブが少ない御神楽沢への入渓はいつもこの時期と決めている。 私は今回で 4 年連続となるが、 1 年目は瀬畑Jrと 2 人で 1 泊 2 日の釣行を強行した。中門岳から御神楽沢に降りるはずが、ネマガリタケのバカ藪の中で下降点を間違え、ミノコクリ沢源流の中門沢に降りてしまった。帰りの登り返しでは背丈以上もあるバカ藪で空しか見えず、おまけにイラクサのトゲでえらい目に遭ったことがあり、 2 人にとっては思い入れの強い渓である。そして今回は、御神楽沢釣行が長年の夢と言っていた小池さんを案内することになった。

 今回の釣行は当初 6 人の予定だったが、 3 人が不参加となり担ぎ役が減ってしまった。
桧枝岐村 2:30 着。 昨日台風が過ぎた割りには天気がはっきりせず、時折の強い雨にしばらく様子を見ることにする。雨が小降りになった頃合を見て支度を始める。

登山口を 3:45 出発。 ヘッドランプを点けて慎重に登る。水場までは急登が続くので陽が昇るとやたらときついが、今日は時間も早く霧雨で涼しいため、いつも程はきつさを感じない。

 水場 5:45 。 幾分東の空が明るくなってきた。水場に到着するとホットする。駒ケ岳の急登も此処までで、駒ケ岳山頂までは幾分楽になるからだ。此処はいつも大勢の登山者が休憩を取り賑わう場所で、来るたびに「そんな大きいザックを背負ってどこまで行くんですか?」「変わった靴を履いていますね。」と聞かれ、「釣りに行くんですよ」と答えると皆ビックリする。今回は天気が悪く時間も早いせいか誰も居ない。

水場でホッと一息

 水場を過ぎて木道が出てくると駒ノ小屋はもうすぐのはずだが、濃霧で全く見えない。木道は階段状で歩幅が合わず、どうにもこうにも歩きづらい。晴れていると中門岳までの稜線に木道がずっと続いているのが見える。霧のおかげで見えない分、返って気分的に楽なようにも思う。

もうすぐ駒の小屋だが、霧で何も見えない

 駒ノ小屋 7:30 。 ベンチで小休止をとる。雲が所々途切れ、西南の方向には東北一の高さを誇る燧ケ岳が見える。 天気が良くなってきたためか、徐々に登山者が増えてきた。登山者は皆日帰り支度で身軽なため、重い荷物を背負った我々は簡単に追い抜かれてしまう。

駒の小屋の前で記念撮影

 駒ヶ岳を越え、中門岳に向かう途中から先程の濃霧がまるで嘘のように天気が良くなってきた。この稜線歩きは晴れているとても気持ちがいい。

駒の小屋から中門岳への稜線にかかる木道を歩く

 中門大池 9:30 。 抜けるような青空が水面に映る。 360 度の大パノラマに、登山者がみな感激している。 この景色は何度来ても見飽きることがない。 天気が良い時は正に雲上の楽園と言えるだろう。

中門大池の水面に景色が映る

 中門岳から御神楽沢への小沢を下降途中、沢の落ち口にサンショウウオを捕える「ズ」と呼ばれる筌が仕掛けられていた。「ズ」は元来スズタケを山葡萄とシナの蔓で螺旋状に編み上げたものであるが、此処に仕掛けてあるのは白い樹脂製のものである。中を覗くと 10 〜 15 a程の茶褐色をした「ハコネサンショウウオ」が入っていた。漁師が下流から「ズ」を掛けにくる筈はないので、桧枝岐から駒ケ岳を越えてくるのだろう。

 御神楽沢本流の出合に雪渓が見える。いやな予感。昨年は滝下のゴーロ帯に巨大な雪渓が掛かっていたが、今回はどうなっているのだろうか? 不安が募ってきた。
 
本流出合 11:00 。 かなりの雪崩があったようで、大木が根こそぎ倒れ、雪と泥が混じり合っている。過去には、こんなに荒れていることはなかった。今年は長梅雨の影響からか、例年になく雪渓が残っている。

本流出合に雪崩の跡が・・・

 本流は昨日の台風の影響で増水し濁っている。試しに小池さんが出合から竿を出し毛鈎を振り込むが、まったく反応がない。魚がいないはずはないのだが、この濁りで毛鈎を見つけることができないのだろう。

本流出合の上流で毛鈎を振ってみるが、濁りのためかアタリが無い

 小休止後、昨年宇渓会 30 周年記念取材釣行の際にお世話になったテン場に向かう。昨年は 17 人が寝泊りしたが、今年は 3 人なので余裕だ。

ムジナクボ沢出合下流の快適なテン場

 テン場 12:00 到着。 しかしよくもまあここで 17 人も寝泊りしたものだ。幕営を終え、入山祝いを済ませる。 一段落後、下って来た本流を釣り上がるが、濁りのせいで反応が鈍い。私がリリースサイズを掛けると、小池さんが「何色?」と聞くので、「黄緑です」と答えると、 2 人は早速同じ色の毛鈎に変えたら一転して魚が掛かってきた。黄緑色は濁っていても魚には見やすい色なのだろうか。

 今年は春先からずっと黄緑のカディスピューパ(もどき)一本でやっているが、源流の岩魚には結構好評だ。 でも瀬畑翁は「毛鈎は何色でもどんな形でも関係ない」とおっしゃっていた。どっちなんだろう。

 2 人は本流を上がるので、私は枝沢にちょっかいを出すことにする。 この沢は水が澄んでいて、水量も普段よりやや多い程度だ。ボサが多いので、テンカラ竿が振れる所だけの拾い釣りになるが、型は 8 〜 9 寸と揃っている。

 魚止め手前の落ち込みに毛鈎を落とすとラインが止まった。浅場だったので、「あ〜ぁ、根掛りか」と思い竿を引きながら寄ろうとすると「ゴゴゴッ!」と来た。
 「あっ、掛かってる!」、と気付いて思い切り竿を引くが全く動じない。 「これは大きい!!」 今まで体験したことのない感触だ。 やがて魚が姿を現し、「ユッサ、ユッサ」と少しづつ寄ってくる。 42 cmのメスだ。 たぶん御神楽沢の女王だろう。腹がパンパンなので沢山卵を持っているようだ。これは4年続けてここ( 1 年目は間違って中門沢に降りた)に通った褒美のような気がする。リリースする前にテン場まで持って行って写真を撮ってもらおう。 テン場に戻り瀬畑Jrが戻ってくるのを待ち、写真を撮ってもらい、「一杯卵産めよ〜」と言いながら流れに戻した。

42センチの御神楽沢の女王

 大物を釣った余韻に浸り、酒が回り夕食で満腹になると、駒ヶ岳越えの疲れがどっと押し寄せ、早々の就寝となった。


 2 日目。 今日は本流を下り、目的地のテンカラパラダイス(広河原)まで行く予定だが、ゴーロの雪渓が気掛かりだ。朝食を済ませ、昼食のそうめんをザックに詰め出発。 滝を降りしばらく下ると、白樺の倒木が沢を塞いでいる。いやな予感が更に大きくなってきた。

滝の上に大量の流木が堆積する

 更に下ると、雪渓が口を開けているではないか! 去年より手前からあるので、かなり大きそうだ。 乗り上がる所もないし、中は真っ暗でとてもくぐる気にはなれない。沢からでは全体を見ることができないので、右岸に取り付く尾根まで上がってみることにする。見晴らしの良い所まで登り、下を見ると巨大な雪渓にクラックが入っており、今にも崩落しそうだ。

ゴーロに掛かる大雪渓には、3本の大きなクラックが・・・

 これでは雪渓通過は危険極まりない。かといって高巻いたとしても沢まで安全に降りられるかどうか。この沢はいつもなら沢通しで降りられるので、 15 mの補助ロープしか持ってきていない。これでは到底足りそうにないし、途中まで巻いて沢に降りられずに登り返すことほど疲れることはないし。んー、どうしよう・・・。せっかく駒ヶ岳を越え、8時間も掛けて歩いてここまで来たのに・・・。 3 人とも尾根でしばし呆然とする。 
話し合いの結果、残念だが今回は沢下降を断念し引き返すことにした。

崩落の危険性がある大雪渓に、暫し呆然とする

 尾根から見る御神楽は本当に綺麗な沢だ。そう言えばここにはもう何度も来ているが、ずっと沢通しだったため、こういう角度から見たことがない。これも雪渓に阻まれたお陰か。

尾根から臨む御神楽沢の下流部

 気を取り直すのに暫く時間が掛かったが、沢に戻る途中の斜面に生えているウルイを昼食のおかずに頂くことにした。しばらく休憩後、 3 人で本流を釣り上がることにする。交互に釣り上がると、ポイント毎に程良く釣れる。

滝下の深場を狙う 滝壺の吐き出しをテンカラで攻める小池氏

 滝壷では瀬畑Jrが 34 cmの良型を釣り上げると、次に小池さんが尺を上げる。 次は私・・・私は 7 寸。
 やはり大きい魚から食ってくるものだ。この沢の岩魚は尺近くなると皆丸々と太っており、 1 サイズ大きな引きを楽しむことができる。沢の上流部は標高が 1,600 mもあり、朝日山系でいえば稜線の高さであるが、この厳しい自然環境にもかかわらず、脈々と世代が受け継がれていることに、岩魚の生命力の強さを感じる。この素晴らしい自然をいつまでも残して行きたいと思う。

滝壷で瀬畑Jrが掛けた34センチのイワナ 小池氏にも同じ滝壷で尺モノが来た!

 テン場に戻り、そうめんとウルイのマヨネーズ和えで昼食を摂る。できればそうめんはジリジリと太陽が照りつける中、広河原で食べたいものだが、まあ今回は仕方がないか。 
休憩後 3 人でまた釣り上がることにする。昨日は水が濁っていたためイワナの反応がイマイチだったが、今日は濁りも取れ幾分水が引き、魚が上を向いているためか入れ掛かりだ。代わる代わる釣り上がるが、雪渓帯まで来たため、戻って昨日私が大物を釣った沢に入ることにした。

雪渓のすぐ下流でも毛鈎にイワナが出た

 今日も枝沢では 8 〜 9 寸の良型が掛かった。 程なく昨日大物を釣った落ち込みに着き、瀬畑Jrが毛鈎を落とすとすぐさま尺が掛かった。次に小池さんが竿を出すと泣き尺が来る。やはりここでも大物から食ってくる。この沢は種沢と思われるので釣った魚はすべてリリースした。

枝沢で毛鈎に来た尺モノたち

 その上はボサになっており、先はどんな渓相なのか上がってみた。しかし全く反応がなく、 10 m程の滝が出てきた。どうやらここが本来の魚止めと思われるが、台風による大水で魚が皆下に落ちてしまい、再度上がろうとして下の落ち込みで体を休めていたのかもしれない。
これをもって今釣行の納竿となった。

枝沢の魚止滝

 今回は大雪渓に下降を阻まれ、目的地であったゴーロ下の広河原まで行くことができず、テン場周りの短い区間ではあったが、魚は今までになく濃く、全員満足できる釣りができた。
例年テン場周りはそこそこいるが、こんなに釣れたことはない。 せっかくここまで来たのに広河原まで行けない気の毒な奴らだ、と御神楽の神が釣らせてくれたのかな。 神に感謝!

 テン場でくつろいでいると、 2 度に渡って下流が真っ白になり、テン場まで冷気が立ち込めてきた。どうやらゴーロに掛かる大雪渓が崩落したようだ。恐らくクラック下の部分が崩落し、その振動で上も崩落したのではないかと思う。もし強行して下流に降りていたらどうなっていただろう。それを考えるとゾッとしてくる。下降断念は正しい判断だったと思う。


 3 日目。今日は帰るだけだが、昨夜からの雨で川は増水し、底石が見えないほど濁っている。予定を一日遅らせていたら釣りができなかっただろう。朝食を済ませ撤収に取り掛かる。雨の中の撤収は気が重い。綺麗にテン場を片付け、 9:30 出発。途中のいやらしい雪渓を何とか処理し、中門岳を目指して沢を順調に上り詰める。

 中門岳 12:30 。沢を詰めて稜線に上がると、下降時よりも駒ヶ岳寄りの木道に出たが、ショートカットでき結果オーライだった。稜線はガスに包まれ 50 m先が見えない。ちらほら登山者がいるが、景色が見えないため残念がっているようだ。
駒ノ小屋 13:30 。 非難小屋にて昼食大休止をとる。
登山口 16:30 到着。 楽しくきつい旅の終了。

無事に帰還!来年もまた来るぞ!!



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