”積年の夢の渓” 袖沢源流 御神楽沢

[報告者] 瀬畑孝久
釣行日:2004/8/9 〜 8/11
メンバー:岩橋敏夫 、小池 卓、小鷹 哲、
高久明夫、瀬畑孝久

 
 会津を代表する日本百名山のひとつ 『 会津駒ケ岳 』 に、 今年もまた 60g のザックを背負い、 ヘッドランプの灯りを頼りに、 ゼエゼエと喘ぎながら登山道を登っている。 "御神楽沢釣行が積年の夢" という小池さんを連れ、 高久さんと私の3人で例年と同時期に入渓することにした。 昨年は残雪が多く、ムジナクボ沢下流のゴーロには 3本ものクラックが入った巨大なスノーブリッジが掛かっていたために下の河原まで下ることができなかった。 小池さんにはその河原で、 思い切りテンカラ竿を振ってもらいたいと今年も連れ立ってきた。 今回は、 我々 3 名の他に、 小鷹さんと岩橋会長の2人をメンバーに加え5人のパーティーとなった。

まだ真っ暗な中で出発準備 ヘッドランプを点けての登山開始

 中門岳から御神楽沢の源頭に降り立つこのルートでは、 泳ぎや高巻き、懸垂下降など全く無いが、 標高 1,100 b にある会津駒ケ岳登山道の木製階段から約 1,000b を登らなければ辿り着くことができない。 特に登り始めて約2時間のところにある水場(1,670b)までが辛いのである。 そうと分かっていながらも、 丸々と肥えた引きの強い御神楽沢のイワナに逢いたくて通ってしまう。

登山道で大きなカタツムリを発見 水場手前、もうヘトヘトです・・・

 水場までの急登で、 「 取り敢えず、 あそこまで登ろう 」 と思いながら、 少しずつ高度を稼いでいく。 「 これが本当に登山道なのか? 」 と疑いたくなる程の傾斜である。 見上げる度に、 ザックの雨蓋が頭に当たる。 それというのも、7月の釣行で持っていった新品のブルーシートが、 真ん中の合わせ目に小さな穴が無数に開いており、 雨漏りに悩まされた事件があった。  同行のメンバーから 「 そんな 398 円の安物を買ってくるからだ!」 と責められ、 今回は奮発して " 500円 " のシートにした。 そのおかげでシートの厚みも増え、 おまけにザックの中に仕舞い込んだため雨蓋が私の頭より高くなってしまった。 山越えだからいいようなものの、泳ぎのある釣行では溺れるところである。

水場はもう直ぐ!

 随分と登りも楽になって朽ちかけた木道が現れると、 目指す 「 駒ノ小屋 」 はもう直ぐだ。 霧の中にひっそりと佇む 「 駒ノ小屋 」 に立ち寄ると、 髭面でとても愛想のいい管理人さんと話を交わす。 昨日、 今日と宿泊の予定が一杯のようで、 奥の部屋で笑い声がする。 管理人さんの話では、 「 一昨日から宇都宮の二人連れが御神楽沢に入っているよ。 今日上がってくるんじゃないかな。 」 とのことだった。 時間的には、 中門岳から沢を下降中に出会う筈である。 高久さんが 「 水場で汲んできた清水が余っているので置いていきましょうか? 」 と管理人さんに手渡すと、 甚く喜んでいた。 髭面だけど、 何故か笑顔が可愛い管理人さんに別れを告げ、 稜線に延々と続く木道を歩く。

駒ノ小屋前で記念撮影 中門岳へと向かう

 中門岳付近では霧も晴れ、 素晴らしい眺めとなった。 いつものように記念撮影をし、 下降点となる木道のロータリーを目指す。 木道を外れ、 草原と根曲がりのバカ藪を下降途中、 スパイクを履いていない数人が、 スッテンコロリンと尻餅をつく。 御神楽沢との出合が近づくと、 昨年の雪崩で薙倒された倒木が折り重なって沢を埋め尽くしていた。 倒木の右岸側を高巻いてやり過ごすと、 中門岳の下降点から約 1 時間半で本流へと降り立った。 途中で出会うと思っていた先客とは、結局会えず仕舞いだった。

霧が晴れた中門大池手前で 中門岳で記念撮影
中門岳でもうワンショット 中門岳から御神楽沢へバカ藪下降

 ムジナクボ沢出合下流の右岸にあるテン場に向かう途中、最近焚火をした跡が 2 ケ所程確認した。  昨年は残雪が多く、 入渓できる期間が短かった分、 今シーズンの入渓が多いようである。

 テン場に到着すると、先ずはビールをネットに入れて冷やすことは忘れない。それから手際よくブルーシートの天幕を張り、2泊3日お世話になる宿が完成した。宿が完成すれば、後は円陣を組んでの入山お祝いビールだ。 釣りは幾らでも出来るからと、 テン場で飲んでいると突然の雨。 これが半端な量ではなく、 おまけに直ぐ近くで雷が鳴り出した。 先月に帝釈山で登山者の男性が落雷に遭って亡くなったのを思い出した。 また、 7 月 13 日の新潟 ・ 福島豪雨では、 隣町の只見で総雨量が333 ミリと 7 月の月間降雨量を一晩で超える記録的な大雨があった。 以降、 天気予報を注意していたが、 南会津一帯では頻繁に夕立があり、 保水能力の限界を超えたのか御神楽沢はアッという間に増水した。

 ふと、 ネットに入れて冷やしてあるビールが心配になり、 ドシャ降りの中カッパを着込んで様子を見に行く。 するとビールの入ったネットは下の淵に落ち、 ロープを縛ってアンカーにしている岩が半分流され、 下の淵に落ちそうになっているではないか!!あわてて増水した沢に片足を突っ込み、 ロープを掴み結び目を解こうと試みるが、 ロープが引っ張られてなかなか解けない。 「 オーイ!ナイフを取ってくれー!! 」 とテン場に向かって何度も叫んでみるが、 増水した沢の音とブルーシートを叩く雨音にかき消され、 私のSOSが皆には届かない。 ビールが流されないかと心配だったが、 意を決してテン場に駆け戻る。 ナイフを取って河原に戻るとまだビールの入ったネットがそこにあった。 下の淵からネットを引き上げロープを切ってテン場に戻ると、 ビールの無事を確認した皆が拍手で迎えてくれた。労いの拍手なのか、 無事に自分のもとに戻ってきたビールに対するものなのか、 皆の真意は分からない・・・

 雨のためテントから出られず、 午後から呑み続けたため、登山の疲れから酒も一気に回り、一日目の夜は早々に全員が撃沈された。

 次の朝、 食事を済ませ一服しているところへ初老の男性が一人、 我々のテン場を訪れた。 すると突然その男性の背後から、 「 おはよう! 」 と聞き覚えのある声。 それは何と坊主頭に髭ヅラの中尾さんだった。 その後ろにもまた一人、 私と同年代の男性が立っている。 先の初老の男性は中尾さん達と中門岳からの下降途中で出会ったとかで、 一緒に降りてきたらしい。 話を聞けば昨日は袖沢下流から中門沢に一人で入り、 途中で野営し今日は夜明けから中門岳を登って御神楽沢に降りてきたのだという。 歳は 60 位だろうか? 何と凄い人も居たもんだと感心した。 暫く歓談したあと、 中尾さんたち二人は我々のテン場の奥を整地し、 タープを 2 枚張りだした。 初老の男性は下流を釣り下るとのことでテン場を後にした。

テン場の前で中尾サンと(左から、岩橋会長、小池サン、中尾サン、小鷹サン、高久サン)

 我々も下の河原まで下ってから釣り上ろうと支度を整える。 今日の会津の渓は曇り空で、雨がチョット心配である。 昨日の増水を見ているだけに尚更である。 下流組は岩橋会長、小池さん、高久さんと私の4人。 テン場下流の10 m滝の左岸を下り、 昨年巨大なスノーブリッジが架かっていた長いゴーロを暫く下っていく。 下の河原が始まるところで少しばかり休憩の後、ここでは一昨年福島の齊藤さんが大物を釣り上げたとか、その先の落ち込みでは岩橋会長が尺一寸を上げたとか、そんな話をしながら皆で釣り上がる。

 暫く釣り上がって行くと、 テンカラで高久さんが尺イワナを掛けた。 それでは記念にと私がカメラを向けると、高久さんの手からハリスのついたイワナがスルリと滑り落ち、 下の落ち込みとの間でぶら下がっている。 バタバタと 2 、 3 度暴れたかと思うと毛鈎が外れ、 イワナは下の流れに姿を消した。 誰かがバラシたのを見てしまった時、 何故だか見てはいけないものを見てしまったような気がするのは私だけだろうか? 暫く 二人の間に沈黙が流れる。 すると 「 どうせリリースするんだから、 いいんじゃな〜い! 」 と高久さん。 その一言で何故か救われたような気がした。

本流を釣る小池サン 良型に満足の私
変化に富む、素晴らしい渓相 テンカラで狙う高久サン

 滝下は、 掛かれば中々の型で引きも良いのだが、 例年より魚が少ない気がした。  滝下のトロ場で小池さんの毛鈎に 8 寸のイワナが出た。 次に岩橋会長がエサで滝壷を探ってみる。 例年であれば尺上サイズが必ず入っている筈なのだが、 さっぱりアタリがなく合点がいかない。 魚が居ない筈はないと、 私は滝の落ち込みの左側の渦に、 軸の太い重めの毛鈎を沈めて暫く粘っていた。 皆も暫くは付き合ってくれていたが、 諦めて滝の左岸を登り始めたところで、 グルグルと渦に巻かれていたラインが止まった。 「 来た! 」 とばかりに 「 ピシッ!! 」 と鋭く合わせる。 しかし、 魚の引きがいつもより軽い。 簡単に寄ってきた魚は 8 寸の雌イワナだった。 こんな筈はないと一人粘ってみたが、 残念ながら今年はこれ一匹だけだった。 私も諦めテン場に戻ると、既に全員が勢揃いしていた。 ムジナクボ沢に入った中尾さんに釣果を尋ねると、 釣り上がると間もなく草鞋を履いた沢屋と出くわし、早々にテン場に戻ってきたという。 上流に出掛けた小鷹さんは、テンカラで 「 ジュニア、尺上が出たヨ〜! 」 と満足気に語り、バーボンを一気に飲み干した。 下流組は、滝壷での釣果に期待して、全てリリースしたため夜のおかずが足りない。昼食後、 釣果に満足できない岩橋会長は下流に、小池さんが上流へと出掛けていった。 夕方には二人ともそれぞれに、いい型をキープしてテン場に戻ってきた。 これで今夜は、一人一尾ずつのイワナが揃った。
 今夜は、 "イワナ丼 " にしようと支度を始めると、 中尾さんが7匹全部を 3 枚に下ろしてくれた。 イワナのテンプラを 2 枚ずつホカホカのご飯にのせ、 甘辛のタレを掛け美味しく頂いた。 残ったアラは、 翌日の味噌汁のダシと骨煎餅に素揚げにし、 無駄なく全部頂いた。

トロ場で良型を掛けた小池サン トロ場を狙う私
滝壺を探る岩橋会長 滝壺で粘る私

 「今夜は、星空が素晴らしい。」と、 小池さんと高久さんが河原で話す声が耳に入ってきた。 シュラフの中で私は、 「 朝冷え込まなければいいがなぁ 」 とボソッと呟いた。 案の定、 夜中の3時過ぎから冷え込みだし、 皆が寒さのためにガサゴソと寝返りを打っている。 私も寒さに耐えかねて、 焚火を起こそうとシュラフから抜け出すと、 既に小鷹さんが焚火を起こし始めていた。 するとそのうちに一人、  また一人と起きだして、 何時しか全員が焚火を取り囲んだ。  あまりの寒さにプロトレックの温度計を見てみると、  8 月だというのに 6 度を示していた。 この時期にこんなに冷え込んだのは、初めてである。
 昨夜、素揚げにしたアラでダシをとった味噌汁と炊きたてのご飯、 ハムエッグで朝食を済ませる。 冷えた体に味噌汁がとても美味かった。

 テン場を綺麗に片付け終えると、 中尾さんが「帰りは降りてきた沢を戻るのか?」と尋ねてきた。 我々は、 「 そのつもりですけど 」 と答えると、 御神楽沢を詰めて帰ろうという。 「 上流に行くと、草原を流れる小川のようになって素晴らしい景色だ。 それに最後は中門岳と駒ケ岳の分岐に出られる。 その方が、楽だぞ! 」 という。 帰りは 7 名の大所帯でゾロゾロと本流を詰め上がると、 小鷹さんの様子が少しおかしい。 聞けば、 昨日バーボンをストレートでガブ飲みしたのが良くなかったようで、 腹の調子が良くないらしい。 遡行を続けると、途中に岩盤がヌルヌルした嫌らしい滝の左岸を直登する。 そこを越えると、中尾さんが言うように草原を流れる小川のようなところに出た。

お花畑を目指し、御神楽の源頭を行く

  暫く上流を進むと、 サラサラとした沢の流れも何時しか枯れて、 次第に高度が上がってきた。  ガレ場を上がると草原はバカ藪となり、 高度計は 2,000 b を越えていた。 暫く行くと、右手に中門岳へと続く木道が見えた。 どうやら目的地を左に外れ、2,133 b の駒ケ岳の頂上に向かっているらしい。 尾根に出て、 大休止をしようとしたところ、 やけにゴミが落ちている。 藪の向こうを覗くと、 そこは何と駒ケ岳の頂上だった。  私も御神楽沢には 4 回程訪れているが、 駒ケ岳の頂上に立ったのはこの時が初めてである。 最後にルートを間違えはしたものの、 これがなければ駒ケ岳のピークには立たなかっただろう。 無事に辿り着き、これも良しとした。
 後は、 登山道を 3 時間。 桧枝岐温泉の 『 駒ノ湯 』 で疲れを落とし、 『  裁ちそば  』  を食べて解散とした。

 積年の思いを遂げられましたか? それとも、来年もまた出掛けるようかな? 小池さん!


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