張り残したタープは無残にも支柱ごと流れに倒されて濁流で見えなくなる。
流れは勢いを益々増し、水中からは大岩がゴッツン、ゴッツンとぶつかる音がし、電柱のような木が流されて行く。今立っている所さえ危険な状況になり、更に高台の泥壁を足で均して退避する。暫くこの凄まじさに驚き、只々、あっけに取られ目の前の出来事を見つめる。
時間が経つとともに我に返り、「そう言えば朝飯も食っていなかったっけ」と安堵感からか急に腹がすく。
幸い夕べのひつまぶしが少し飯ごうに残っており、3人で分け合う。飯を食ってだんだんと冷静になってきたもののこの状況でどうやって帰るのか思案する。ビバークするだけの食料はまだあるが、今日の夕方に帰ることになっており、家族にいらぬ心配はかけたくない。雨は降り続いているが、いくらかではあるが、雨足が落ちてきているようだ。足元が見えない渡渉はやりたくないが、ここにいても泥壁で膝を折りながら3人で過ごすだけで、行けるとこまで行ってから判断しようとテン場を後にする。
最初の高巻きの場所までは流されそうになりながらも何とか下ることができたが、この先の淵が大量の流木と共に渦を巻いており、かなり手強そうだ。
根本氏をテープで確保して側壁を空身で降りてもらい、その先の下の様子を見てもらう。ここからは車止めから降りた場所までは僅かなのだがとても先に行ける状況ではないとのこと。仕方なく今、高巻いて降りて来た所を登り返し、遥か頭上の尾根を目指すことに。「えー、あそこまで?」と言う声も出るが他に方法も無い。運が良ければ尾根道に当たるかもしれない。しかし、車止めは対岸であり、運よくここまで降りることができても渓が狭まった場所での最後の渡渉が待っている。急なガレ場を慎重に登るが、上に行くほど草付きなって横に横に逃げながら這いずり廻るようにしてやっと尾根へ。そしてそこには車止めの対岸から延びていると思われる鮮明なそま道が。「まあ、少なくても水が引けば直ぐに対岸に渡って帰れるだろう」と一安心。僅かに下ると車止めが見渡せ、予想通り最初の渡渉点に導かれる。残念ながら想像した通り僅か5m先の対岸ではあるが凄まじい水量でとてもとても渡渉する気にはなれない。
下降地点の岸壁の岩棚で小1時間はいただろうか、コケの張り付いた石を目印にして水の減り具合をずっと見ていた。急に下がって安全な水位になることは期待できそうにもないが、10分に1度位の割合でこの石に水が掛からなくなる僅かな時間があることに気付き、このチャンスですり足で川に入ってみる。水流は相当強いものの以外にも水中の大石がスタンスになって何とか渡り切ることができた。続いて後続2人も渡り終え、無事帰還。帰還ビールをと、行く時に冷やしたビールを期待したがこれは贅沢だろう、今まで帰れるかどうかもわからずにいたのに、現金なものである。
幸いテン場での退路は確認しておいたので大事に至らずに済んだが、今回の反省はやはり、天気に確信が無い状況での河原でのテン場設営だろう、砂地があって大量の薪がある意味を良く考えてテン場を決めないとということだろう。大いに反省、でもこのネタで暫くは宴会が盛り上りそう。
ああ、しんどかった。