Fishing2008釣行記 木漏れ日の中で
木漏れ日の中で
 
  
[報告者] 本宮和彦
釣行日:2008/5/3〜4
 メンバー:齊藤敦、本宮和彦
 
 
 
 
 
 
 今年の冬もネオン街で体力と財力を使い果たしてしまった。、パンパンになった内臓脂肪と揺れる頬肉をつねりながらのんびりと山で遊びたいなぁなどと一路みちのくへパジェロのハンドルをきった。
 齋藤さんのお宅で深夜の宴会。ワラビのしょうゆ漬けにビールがすすんでしまい目がさめると朝の8時。それから急いで準備を整え齋藤さんのエスクードですっかり陽が登った国道をひた走りついた車止めでも入山祝い。昨夜呑んだビールの後に最初に口にしたのがまたビールと云う典型的な宴会釣行に思わずザックの中のアルコールを確認してしまった。
 まずは久しぶりのひんやりとした沢の空気に呼吸をして少しだけ肺が大きくなるよう深く深く息を吸う。体の中が何かを思い出したように吸った酸素を血液に乗せて体の隅々にしみこませる。この瞬間が忘れられなく渓に通っているのかも知れない。
 
 遡行を始めるとそこは春と冬が同居をした目に飽きない多彩な空間が広がっていた。残雪の回廊をひたすら歩き、仰ぎ見れば芽吹き始めた木々と小鳥のさえずり。逃げ惑うイワナたちを指差しながらひたすら目指すは出合のテンバ。


齊藤さん、何見てるのかな?
まだ冬の名残が
なぜか微笑んでます


 
 チョットだけよだれをたらしながら右岸から流れ込む枝沢へ竿を片手に入り込んでみる。水量は雪代が入っているせいか少々多めだがポイントがはっきりしているためとても釣り易い。しかし、ここぞと云うポイントに魚が走らず空振りに終わってしまった。
そんな遡行も2時間ほどでテンバへ到着。
 薪も豊富で地ならしも必要なくブナの萌える緑に囲まれ快適だ。
フライシートを張りおえ、アルコールを軒先の沢に冷やし、身支度を整え齋藤さんと出掛けの熱い抱擁を交わし(冗談です)いざ本流へと出発。もう一方の支流からの雪代が増えたせいで、腰まで浸かると両足の内側の付け根にある部分が痛い。こんなときは深呼吸などといっている余裕はなくラマーズ法のような呼吸をしながら前にいる齋藤さんの背中を早く行けとばかりに押してみる。
普段は水など流れていないであろう小さな滝の落ち込みにエサを落とすと小気味良い魚信が伝わり跳ね上げるように竿に力を加えると小さいながらも橙色鮮やかなイワナが顔を見せた。


おなかがまっ黄色です


 
 齋藤さんはと云えば対岸で竿をしならせ薄笑いを浮かべながら魚を引き寄せている。すると手招きをして私を呼んでいる。
「こっちに来て竿を出してみな!」
 すっかり高巻きに入っていた私は聞こえないふりをして見ないようにしていたが、ふいに目が合ってしまった。
雪代の入った青白い流れをヒエー!と云いながら渡り始める。しかし何を思ったのか滑底のツルツル岩盤の中を平気で渡れるはずもなく摺り足で低く引き上げた右足が流れに巻かれそれに耐えられなくなった左足はいとも簡単に岩盤を離れた。こうなると”溺れるものは・・・”の通りありとあらゆるものを掴もうとじたばたしてみるが流れが速く落ち込みに流れ落ちていく。滑底の為流れが速くかつウネウネと複雑な流れの中ようやく手がトロ場の岩に掛かったところで顔を上げることができた。
 自分の判断で渡ったのだが下手すればケガをしてもおかしくない状況にずぶ濡れになってしまいそれからは恐怖感が先にたち中々進むことが出来ない。ふと顔を上げると齋藤さんがニコニコ笑っている。
「いやぁ!すんごいとこ渡ってくんなぁと思ってよぉ!大事かい??」
ようやく照れ笑いが出てきた。自虐的とも云える洗礼を受けた私はすごすごと件のポイントへと竿を出す。見える魚は釣れないとよく耳にするがここでは見える魚が良く釣れる。エサに魚達が我先に寄ってくる。が、しかしこれもよく耳にすることだが多すぎてエサの配分が間に合わないのか型がどれも七寸から八寸とそれほどでもない。釣り人は釣れないと文句えお云い、釣れれば釣れたで型が小さいと文句を云う。沢山大きい魚が釣れる渓があれば行ってみたいものである。



雪代が入ってきました


 
 2人の食料分などすぐに調達できてしまうため釣っては放しの繰り返しでそろそろかな?と思っていると齋藤さんから
「もう帰っか〜!!」
「そうっすね〜!!」
決まれば早い。頭の中はビールと焼酎で沸き返っている。冷たい流れでひっくり返っても巻き道でコンタクトレンズを落としてもウルイが食べごろで斜面に這いずり上ろうとしてずり落ちても頭の中はビールと焼酎なのである。
 
 さっきまで住居だとか住みたいとか云っていたテンバが今では居酒屋にしか思えなくなりその暖簾をくぐった瞬間に沢の中から冷えたビールを引きずり出し2人だけしかいない店内での乾杯。最初の一杯目は喉慣らし。二杯目は胃袋を広げる為。駆けつけ三杯とは良く云ったものですぐに350oが次々と空になり、なんで500oにしなかったのかと2人とも一様に悔やんでみる。
 イワナの下処理と採ってきたウルイ、ドウナなどを沢水に冷やし米を研ぐともうあとは何もすることがない。漂う焚き火の煙を目で追いながらふと青空を見上げてみる。萌え始めたブナの新芽とその向こうに見える青空のコントラストが美しい。山には大の男をもロマンチストに変える不思議な何かがあるのだろうか。これは最初に深く深呼吸をしたときにかかる魔法なのだろうか。それとも単に酔っ払い男の戯言なのだろうか。どちらにしても街の居酒屋で出る美しいとは同じ言葉でも全く意味が違うのは間違いない。
 
 夕暮れの訪れとともに酔いもまわりハラも減ってきた。米を火にかけ”イワナのひつまぶし”に取りかかろうとフライパンとごま油を取り出しこんがりと炒める。
「このまま食ってもうんまいよ」
齋藤さんに云われ一口食べてみるとホクホクとしてごま油の風味が良くワサビを乗っけて食べるとさらに旨さが増した。このまま食べ続けるとご飯に混ぜることが出来なくなってしまうため泣く泣く箸をおいた。
夜食の前の軽い食事をひつまぶしで済ませるといよいよ焼酎に切り替えてみる。軒先の沢で汲んできた天然水で割りグイとあおるともう止まらない。ここまでで日頃飲んでいる量をはるかに超えているはずなのにまだまだペースは衰えない。ウルイのおひたしを食べながら、柿の種を食べながら、2人だけなのに会話が止まらない。

ごま油でこんがりと
甘辛いタレをからめて
ほっくりとかき混ぜると・・・ 


 
 陽もどっぷりと暮れ赤々とした炎を前に暗闇に目を凝らしても何も見えない。動物たちがすぐそこにいたとしても分からない世界が果てしなく続いているように思える。
いつしかウトウトと寝入ってしまったようだ。何時なのかはどうでもよく時計を見る気にもならず、ふと齋藤さんを見ると寝袋の中でスヤスヤと寝息を立てている。
何か忘れていると思い目をこすりながら焚き火に薪をくべボーっとしていると、視界に煮卵の入ったビニール袋が入った。
 「そういえば夜食がまだだった」
ゴソゴソ動いていたせいか齋藤さんも起きだし本日何度かめの乾杯。
「そういえば本宮氏。こんなもん持ってきたんだよ」
と、ザックの中から取り出したのはメンマと焼豚。ここに私が持ってきた煮卵が加わりウルイとドウナを油で炒め固めに茹でた麺にスープを注げば源流ラーメンの出来上がり。
ここまで来て上がりにラーメンとは贅沢だ。きっちりと2人で3人前を平らげハラを軽く叩くと ポンポン と音がする。小さい子供がおなかのことをそう呼ぶには云われがあるんだとそんなことを思わなくていい場所と時間なのにふと思ってしまった。
膨れたハラの置き場に困るほど苦しくこれは眠れないかな?などと思い横になるとチョットまばたきをしただけにも関わらずいつの間にか朝になっていた。


深夜2時です
具沢山
云っておきますが夜中の2時です


 
 目がさめると胃薬のパッケージのような鮮やかな緑にしばし見とれ、これは残りの焼酎を飲むしかないだろうと齋藤さんと無理やり理由づけをして朝から宴会が始まってしまった。朝食用に持ち込んだ”シャウエッセン”もつまみになり、玉子焼きを加えれば朝食宴会の準備O.Kである。



シュラフの中から


 しばしまったりと過ごし後片付けを始める。帰りは来た沢をのんびり竿を出しながら車止めを目指そう。

 途中小さいながらも毛ばりを銜えるイワナ達と戯れながら春の訪れを感じる。

 思えばこうして四季を感じ期待に胸を熱くするのも、何もできなかった自分がここまで楽しめるようになったのも全ては気心知れた仲間達のおかげ。

 今年も楽しみな季節がこれからやってくる。木漏れ日の中、頬を伝う涼やかな風とハルゼミの声に早くもまた別の渓への思いがふくらんでいた。





 


(ほんぐう かずひこ)
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