Fishing2013釣行記 痩せた岩魚と蛍[プライベート釣行 N川支流25]
痩せた岩魚と蛍[プライベート釣行 N川支流25]
 
  
[報告者] 高瀬賢一
[写真] 高瀬賢一
 メンバー:高瀬賢一夫妻
 
 
 
 
 
 宇都宮では昨日から強い雨が降っている。しかし山形地方での天気予報を見ると、三日前からとこの先2〜3日も晴れマークがついている。仕事の日程表は明日から二日程なにも書いていない。 そうなるとニンマリと顔が緩んでしまう。

 こんな時、『明日から二日程釣りにでも行かないかい』と言える時間の自由になる釣友がいると嬉しいが、そんな都合の良い友達はそうは居ない。まして釣りと言うのは同じ渓流釣りでも、餌釣りだったり、毛鉤釣りだったりと楽しみ方が微妙に異なり、歩くスピードも違うので、その条件に合う友達となると皆無となる。

 そうゆう友達を得られた人は、最高の人生を送れるに違いない。


私の釣りスタイル



 私の若い頃の発作的な釣行は、常に準備してある調味料セットとキャンプセットと釣道具の入ったデイパック、それに米とビールを車に積んで、一人で暗くなる前に家を出る。そうすると夜中の12時前には車止めに付き、車のライトでテントを張り、椅子、テーブルをセットして、ビールを楽しむ事が出来るのだが、最近では年のせいか、ガスランタンの明かりの下で一人ビールを飲むだけではなにか物足りない。感動を分かち合う会話が欲しいのだ。

 そんな時私の窮地を救ってくれるのが女房殿で、『じゃー 一緒に行こうか。』と同行を申し出てくれる。
 


女房殿にも無垢な岩魚が


 女房殿の釣りスタイルは、私が御教授申し上げたので、全く私と同じ釣り方である為違和感が無い。願っても無い釣友と言う事になる。それに毛鉤釣りのキャリアもすでに20年を超えているし、最近では積極的に参加したいようだ。(本当は女房殿も釣りがしたいのだ。)

 話はすぐにまとまり、明朝4時30分のスタートとなる。今回は沢を横切る登山道が地図上で確認できるので、それを越えてさらに源流を目指すこととした。いつもは残雪に阻まれて、まだ源流を確認していないが、N川支流で源流を確認していないのはこの沢だけということになる。
 


斑点も鮮やかな岩魚



 もっともこの沢は、条件の良い時に入渓することが多く、釣果に満足してしまい残雪だけの理由ではなく、魚止めまで見ずに帰ることが多い。毎年の事だがこの季節は色濃くなり始めた緑や、その存在を誇示し競い合う草花がなんともいえず魅力的で、私にとっては特別な世界に感じるのだ。


明るい山間の風景



 女房殿にとっては絵手紙の材料探しに格好の世界が広がる為か、カメラを手に釣りどころではないようだ。

 私は今年も又ここにこられた事に感謝しつつゆったりと竿を振り、緩やかな流れの筋に毛鉤を乗せ、流れより少し遅く毛鉤を流す。岩魚の口が赤く開き毛鉤を吸い込む瞬間が見える。上のポイントに、そして次のポイントにとゆったりと毛鉤を乗せる。その度に竿がヒュと風を切りその後を追うようにラインがゆっくりと空間を流れてゆく。

 今年の岩魚は痩せている。頭と口ばかりが大きく体が痩せている。手袋ごと水に浸し手を冷やしてから岩魚をつかむと岩魚もおとなしい。気候が大きく変わろうとしているのか、冬が長く雪が深い、春と秋が短く夏が異常に高温となる。そして異常な雨量を観測し、沢は荒れ餌が流され不足しているのかも知れない。人間の世界よりたくましいはずの自然界の生き物の方が、はるかに気候に敏感なのだ。

 『気付かないのは人間ばかりなり。』

 『気付いても何もしないのも人間ばかりなり。』

 気づいた時は滅ぶ時だなんて事のないことを願う。
 

小滝を超えるとそこには穏やかな世界が広がります




 大岩をよじ登り小滝を巻く、そして又竿を振る。最後の滝を右に巻き、登りきるとそこは驚きの世界が広がっていた。荒々しい沢の姿は消え、広葉樹の森の中をさらさらと流れる穏やかな流れに変貌したのだ。

 あっけにとられはしたがそれと同時に感動がこみ上げてきた。

 女房殿と『 いいねー。 』と感動を共有。途中沢と登山道とが交差する場所を確認。本当はこの先が見たかったのだが、今回も雪の壁に阻まれ断念する。しかし今回の目的は達成ここで納竿とする。確保した刺身用とテンプラ用の岩魚は残雪ごと魚籠に納め、ブナの森の登山道をのんびりと戻る。
 
今宵の宴が楽しみです



 天場に戻り周囲に誰もいないことを確認し、水場で裸になって全身を洗う。これが最高に気持ちいい。

 そしてビールを飲みながら晩飯の準備にかかる。揚げたての岩魚の天ぷらとビールは最高に相性がいい。また痩せた岩魚なので、少し大きめな奴を持ち帰って刺身としたが、これもまた美味い。限られた人しか味わえない貴重な物だけに、幸せを感じながらいただく。

 女房殿との会話も、今日一日が楽しかったことを伺わせる。女房殿が喜んでくれるのは私も嬉しい。ここは幸せな気分にさせてくれる場所なのだ。やがてビールの酔いと今朝が早かったせいもあり睡魔が襲う。今日は面倒なのでテントは張らず車の中で寝る事とし、シートを倒し段差を毛布で調整し寝袋を広げる。


 車内灯を消すと、闇のなかに遠く沢音が聞え、意識が薄らぐ私に、『お父さん見てごらん。』と女房殿から声がかかる。闇の中に無数の小さな光が揺れているのだ。何十年も通った沢なのに初めて見る光景だ。点いては消え、点いては消える蛍の乱舞、今日の最後にこんな感動が用意されていたなんて、感動、感謝の一日でした。 

 今日は痩せた岩魚を見て異常気象を心配したり、まだまだ残る自然のなかで蛍の乱舞を楽しんだりと、楽しい一日であったことに感謝し就寝とする。

 女房殿はしばらく蛍の乱舞を闇の中で楽しんでいたようだが、私にはその先の記憶はない。次回は魚止めを確認する為に、季節の終盤に訪れたいと考えている。
 


(たかせ けんいち)
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