Fishing2016釣行記 朝日連峰、山人の隠し岩魚
朝日連峰、山人の隠し岩魚
 
  
[報告者] 齊藤敦
釣行日:2016/4/29〜5/1
 メンバー:林出政治、上田勉
 後藤正春、齊藤敦
 
 
 
 
 

ここへ来るのはきっちり1年振り、朝日と言えば豪雪地帯で源流域に入れるのは早くて6月と言う中、ここだけは例外。さすがに日陰のゴルジュのごく一部では雪渓が掛かるが、殆どは竿が出せる状態の開けた川原が延々と続く。そして何と朝日の山中での山菜と言えば5月末からがぼちぼちなのに早や、ウルイやコシアブラ、アブラコゴミ、ウドと一通りの山菜が山での食事メニューを一段と楽しくさせる。

食べごろのウド、シドケ


 
 

特に昨年は雪が多く、山菜もこれからと言う雰囲気だったが、今年はブナの新緑も最高で4月にして源流の幕開け気分に浸る。予報では初日が雨模様、2日、3目が晴れ時々曇りとメインの中日の釣りには問題なさそう。


 生憎と予報も当たり、雨の中6時から杣道を歩き始める、眼下の本流は昨夜からの雨でガンガンに増水し、こんな時にしか現れない白糸の滝が方々の岩場を伝う。テン場間近の最後の渡渉点までは本流を横切ることはないのでコシアブラやウルイ、ウスヒラタケを採りながらゆっくりとテン場を目指す。

 のんびりペースの2時間弱で渡渉点に到着、やはり平水の倍近くで腰までの渡渉を強いられる、ザックが重いせいもあり、2人組で支え合いながらスクラムで渡り切る。けっして冷たくないとは言わないが雪シロ水ではなく雨水の増水なので思ったほどの冷たさは感じない。ここから僅かの歩きでテン場に到着、昨年に目に付くゴミは全て処分して帰り、今回はきれいなままのテン場として迎えてもらうことができた。


 せっかく自分たちできれいにして大事にしてきたテン場に平気でゴミを残されると非常にいやな気分にさせられるのは誰も同じ。このテン場を使う、もう1つのパーティーの方たちを存じているが同様に大切に使っていただいているようで感謝、感謝。


 昨年はツェルトとテントを持参したが朝方に非常に寒い思いをしたことと人数の関係で今回は大判のブルーシート2枚を組合せ全面張りの小屋風に仕立てる。そして前室にはタープを張って快適な宴会スペースも出来上がる。タープ脇の普段なら枯れた水路が、昨夜から降り続く雨のお蔭で急きょ現れた水場となり、ビール冷やしや洗い物に大活躍。


冷える間もなく、まずはビールで到着乾杯、盛大な上田式は無理としてもほぼ2日間の薪を集める。雨は降り続け、時折強くなりこそすれ一向にやむ気配はない。すぐ目の前が釣り場なのに釣りに出る気分にもなれず、それぞれが思い思いの時間を過ごす。このまま飲み続けたら貴重な1日が終わってしまいそう、意を決してテン場前から僅か上流50m程竿を出して見る。


 岩魚はそう大きくはないもののポイント毎に釣り上げ、放すの繰り返し。小滝が現れ一人じゃこの上に行くのもどうかな〜と躊躇っていると合わせた時に仕掛けを枝に引っ掻けて針がなくなり、丁度いいやと右岸側の祖道へ這い上がる。途中、極太のシドケを一掴みし、僅かで皆のいるテン場へ。雨は降りやむ気配もなく、このまま濡れ物を来ているのもいやになり、テン場着に着替える。つまりこの瞬間から私には飲み開始と言う合図。釣りのめっぽう好きな後藤さん、林出さんは諦め切れずにいたが、とうとう竿を持って出掛けてしまった。


 テン場に残った上田さんは遠くから一人運転しての疲れかシートの中で寝入っている。実は入山前日の早朝6時に家でまだ寝ていた私の携帯に電話があり、「5時集合じゃなかったの?まだ来ないの?」と、私:「明日の5時って言いましたよね?」、と言うことは1日余分な分、疲れもひとしおだな、と納得。


今日の夕食メニューは途中で採った山菜の天ぷら尽くしとイワナをオリーブオイルでこんがりと炒めタルタルソースをかけたイワナのソテー。私は山での食事だからと言って缶詰やジフィーズ、レトルトだなんて味気がなくてはっきり言って好きじゃありません。山で得られるものにひと手間かけて山でしか食べられない料理で酒を飲むのもこの趣味の大いなる楽しみです。


 ひとしきり、飲み、喰い満足感がピークに達したころ、寝ないでここまで来たこともあり、早めの就寝。いつもの自分には早すぎる時間で小さなお盆に焼酎を注いだカップを持ってシートに入るが結局手付かずで横になった途端高いびき。


 夜半に上田さんが起き出して外でごそごそしている、シートの屋根が垂れ下がっていて雨水が溜まっているのは何となく理解していたが、それどころか雪が積もってシートに溜まっていると言う。上田さんが緩んだ紐を張り直し、大事にはならずにまた眠りに付く。何度もシートを叩く雨とどういう訳か顔面付近にシートから霧状に掛かる水が安眠を妨げ、シュラフカバーにすっぽりと入り、朝を迎える。


 いつもは夜明けとともに起きて焚火をいじり始める年寄の方たちも今朝はまだ、シートの中でまどろんでいる。野鳥の声も賑やかになり雨で完全に消えた焚火を組み直し、朝もやの中にモクモクと白い煙が上がる。煙の上がり具合からすれば少なくても天気は悪くなさそうな1日か。




テン場の朝のコーヒー(ビール?)は格別



【左】向こうの山並みが見渡せる稜線上の大地
マタギ曰く山中では想像もつかない○○の畑だそうです

【右】お宝伝説があると云う岩屋




 
今日はマタギ道を使い昨年、滝で断念した上に出て、できたら魚止めをと言う計画。情報にあった支尾根の取り付きを中腹目掛けてよじ登る。獣道や水の流れた跡など道と見間違いそうな場所が方々にあるが、マタギが今年に付けてくれたと言うナタ目を拾うことができ、何とか道を探し当てることができた。道の途中には山中にしてはまっ平らで広く沢水がこんこんと流れ、ワサビの花が咲く、〇〇畑(マタギが「昔、山賊が里から運んだ〇〇を植えて今は1面○○が」)と言う天国のような場所があり、ここから僅かでマタギがクマ取りの寝城にしていると言う、その山賊が住んでいた岩屋に繋がる。岩屋には鍋釜の生活道具1式があり、ここでどんな生活を?と思いを馳せる。

道は渓沿いに少し下降し、滝を巻いた丁度良い少し上に降り立つことができる。早速、竿を出して1投目から、まずまずの型が来る。しかし、どうも昨年の時よりも出るタイミングが遅く、型も一回り小振りのよう。これが今年の特異な気候で雪シロもなく春を迎えたことに原因があるのか、それとも他に原因があるのか。ま、とは言え魚はどこからでも出て「釣れない」などと言うことでは全くない。昼飯用にそこそこの型の数尾の岩魚を袋に収め、沢水の流れる河原で昼食用のラーメンを茹でる。昼酒用に刺身におろし、採ったばかりのウドとコゴミをつまみに一杯やれば最高の贅沢。

 
【左】昼は餅入りラーメンに山菜を入れて

【右】茹でたコゴミで一杯





 暫く休憩をし、まだまだ奥深く続く上流を目指す、イワナは一層濃くなり竿を縮めて足元の深みを見下ろしながら探っても喰い付いてくる。夕餉のおかず用に数尾を確保した以降は釣っては放すの繰り返し。左から2:8で合わさる支流を見ると僅かで2条の滝。昇れない訳ではないがもう沢山、時間的には程よい時間。ぎりぎりまで釣りをして日没間近にテン場に帰り、暗い中での晩飯準備など性に合わない。やはり明るい内に濡れ物を着替え、ちびりちびりとやりながら調理の大半を済ませてしまい、後は焚火を眺めながら至福の時を過ごす、と言うのでなければ。林出さんは先の支流を詰めたようで魚止めの主をぶら下げて現れる。イワナ袋に残雪を入れて来る時に降りた先のマタギ道を拾いながらテン場へ戻る。



2条の滝間近の弛みで岩魚が群有していたが、さて釣果は



 今宵は人数分確保をしたイワナを使い、パン粉を付けてカツに揚げ、飯に千切りキャベツを盛って揚げたカツを乗せ、ソースをかけたイワナソースかつ丼。肉好きの上田さんも「うまい!!」と二重丸。汁にはイワナのガラで出汁を取りウド、アブラコゴミ、ウルイ、シドケ、ヒラタケをこれでもかふんだんに入れた贅沢山菜汁。くせのある山菜どうしの味が絡み合ってこれも二重丸。しかし、飯を食い、汁を飲んでしまうとどうしても「1丁上がり」の状態になり、睡魔が襲う。メンバーに若い者がいれば話し相手で飲みながらと言うこともあるが、いかんせん自分も含めて年寄りばかり。「じゃー、そろそろ寝るか」となって貴重な渓での時間が就寝に消化されてしまう。そしてシート下に持込んだカップも昨日同様で爆睡へ。


 あまりに早い就寝とシートを叩く大きな雨音で夜明けの相当前に目が覚める。さすがに雪は降らなかったが雨脚は夕べよりも激しく、今日の帰りの渡渉する場所が気に掛る。万一に備え、早めの撤収の準備をし、渡渉点へ。意外にも想像以下で少し上流の瀬を渡り、対岸へ。

 後は一昨日に来た道を下るだけ。雨、雪に祟られた釣行だったがメインの中日の釣りの日は何とか天気が持ってくれ、終わって見れば満足の3日間。


 帰りがけにマタギのお宅を訪ねて茶をご馳走になりながら、岩屋の刀のつばや鎧が出てきた穴の奥底にあると言うお宝伝説やクマ捕りの話をお聞きし、来年の再訪を約束し、当地に別れを告げる。


 でも、「齊藤さん、来年なんて言わないで秋にまた来い、キノコの場所案内するからよ」って言われちゃって心が動いています。





 
(さいとう あつし)
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