桝形川釣行

 
斎藤金也 (山形山岳渓釣会)

斎藤金也 (山形山岳渓釣会)
2002/7/12 〜 14
メンバー・・・瀬畑雄三、瀬畑孝久、渡辺 肇、高久明夫、平江 誠
下田香津矢(全日本暇人協会)、斎藤金也 (山形山岳渓釣会)

 
 
三叉沢との出合い少し下流を天場とした。小高く平らな場所は、ほどよい広さを提供してくれている。さっそく地均ぢならしをして天場を整えていく。 其処此処でジュニア氏こと瀬畑氏のご子息 ・ 孝久氏が率先して事にあたる姿には、感じ入るものがあった。  その中、翁による正調ブルーシートの張り方 ・ 焚火の伝授があったが、「源流翁」に少しの妥協もなかった。 思うにこの厳格さこそが、安全に住みよい天場を与えてくれるとつくづく考えられるのだ。翁とのまともな釣行は今回が初めてだが、寝泊りは何回かしている。 天場での泊まりは 2 回程だが、 2 回とも台風に遭い大雨の洗礼を受けた。 自然に妥協は通用しないことを、我々に伝えているのではないだろうか。

 天幕を張り終えるころ、渓には夜のとばりが落ち始める。 安住の地を得た我々 (退化した動物たち) は、ザックを運び込み夕餉の支度にとりかかる。 キリッと冷えたビールが配られるころには、飯盒ご飯も炊きあがり、桝形川の夜は一点の灯を残してふけていく。


 翌 13 日はピーカン。 ふたてに分かれての釣行となった。 大物狙いは翁 ・ ジュニア氏 ・ 肇氏の 3 氏、 我々 4 名は数狙いで本流に向かうことにした。 いずれにしても、はやる気持ちは止められない。だが、意気消沈する羽目になる。 慣れないテンカラ釣りをしようとしたのが間違いなのか、ラインとハリスを天場に置いて来てしまった。 「平江さん、ラインの予備持ってる?」 「高久さん、ハリス持ってる?」 「・・・ガハハア」、苦笑いにもならないテレ笑いで、その場をしのぐしかなかった。

 小さな通らずを通過すると両岸は箱状に圧縮され、本流は右岸から垂直 4 mで落ち込んでいる。手前から 3尾をかけ、落ち込みでは良型が竿を絞った。 慣れないテンカラを私なりに解説すれば、竿先に魚信あたりが伝わる訳でもなく、動物的な勘と言えば大袈裟かもしれないが、 「ン、来た」 の勘であわせるとラインがいきなり張り、竿が弧を描く。 そして掛かったイワナは少しずつ寄ってくる。 この掛けてからキャッチするまでがスリリングで面白く、本流釣りのそれと似ている。 加えれば毛鈎を打つというか、飛ばすというか、あの動作は結構楽しめる。 だが如何せん私のテンカラにはまだ余裕が無い・・・。

 落ち込み上流は開けていた。 テンカラにはもってこいの渓相、落ち込みからも平瀬からも良型がラインを引っ張った。 ただ残念だったのは、二股で落ち込んでいる魚止めに釜はなく、ピリオドを打つべく場所から魚信あたりが伝わらなかったのは残念に思える。 だが、途中の広河原で眼についた焚火の後を察すると、最近より以前に何人かのパーティーが楽しんでいったように伺える 。そして帰途に二つの沢を探ってみたが、出合いから直ぐに魚止めとなり、近い源頭を実感させられた。

 先の通らずまで帰ってくると、ジュニア氏が竿を振っているのが見える。 平江氏が声を掛けたかと、その瞬間、竿の先にドボンと飛び込んだ・・・爆笑。

 天場に戻るとせっせと手を動かしている翁がいた。 ミズナの筋を取り除き、夕餉の足しにしようというのだ。 皆が集まり釣果の話で盛り上がる筈だったが、大物組は途中の険悪な渓相に勇気ある撤退をしてきたと言った。 この面子での撤退と聞いたとき、私の顔が一瞬こわばった気がする。 さて、今夜の夕餉にはイワナがある。 ヅケに甘露煮、ミノの塩味ホルモン、寿司は握りと巻きが出された。 ミズナの一夜漬けはシャキシャキとした歯ごたえが実にうまい。 遊んで食ってしこたま飲んで、楽しかった今日一日を振り返り瞼を閉じた。

 今朝は雨、夜半から降り続いていたようである。 雨降る中、例によって飯は炊きあがっていた。昨夜はだいぶ盛り上がったらしく、二日酔いの二人ががおっている。 飯を胃袋に押し込んで、残りを握り、天場の撤収にとりかかる。 今の今までここに天場があったとは、誰が見ても気付くまい、全く自然である。頭上に反り立つ見事なまでの男根岩を見上げて別れを告げ、天場を後にした。

 帰途も翁のレクチャーは続く。 沢を詰めて小尾根に這い上がり、ナタ目を探して足を進める。 途中、我々は試された。「道を間違えちゃったよ、 30 分はオーバーするよ」 「・・・・・」 「何黙ってるんだよ、ナタ目があったろぅ」と我々を たしなめ、笑いながらスーパー翁は山を下る。

 楽しんでいる。 だから私も楽しいのかもしれない。 また私の身体のどこかで野生は目覚めた。
 台風 7 号のせいだろうか、全身を大雨に打たれて車中の人となった。
 
 
 
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